はてなダイアリーが選ぶ名盤百選

亀盤


あぶらだこ(亀盤)/ あぶらだこ (ASIN:B00005GFCC

 ようやくまわってきたはてなダイアリーが選ぶ名盤百選
 id:testcardから「オレらが容易に思いつくような音盤とハロプロ禁止でおねがいします」という条件をもらって、すんごく何を選ぶか迷ったのだが、やはり自分がいちばん好きなアルバムを選ぶのがよかろうということでオレを知っている人にはまったく意外性の無いこのアルバムにした。

 「あぶらだこ」というバンドはオレの中ではエバータイム世界ナンバーワンでオンリーワンのバンドでありなにがあっても一生ついていくことはまちがいないのだが、ここでそんな電波な信仰告白を書いてもしょうがないので、うまく書けるかどうか自信はないが努めて客観的に書いてみる

 「あぶらだこ」が結成されたのは80年代前半、結成当時はギズムやエクスキュート等とともに東京ハードコアシーンにカテゴライズされていた。確かに当時の音源を聞くと性急なリズムやノイジーなギターからハードコアと取れないこともない。しかしやはり当時からその異質性は突出していた。
 転機となったのはそのころのハードコア有名バンドをコンパイルした徳間からのオムニバスアルバム「GREAT PUNK HITS(ASIN:B00005GF73)」に収録された「米ニスト」と「クリスタルナハト」という楽曲である。この曲ではじめて後のあぶらだこサウンドのトレードマークとなる変拍子が全面的に解禁される。いまでこそ変拍子を取り入れたパンクバンドもごまんといるが、当時このアルバムを聞いたオレはかなり衝撃を受けた。
 すぐにメジャーデビューとなる1stアルバム「あぶらだこASIN:B00005GFCA)」*1をリリースする。ドラマーが後にラフィンノーズに加入するマルからルインズ等の吉田達也にチェンジ*2したことからさらにリズムが強化され、もはやハードコアとはとても言えない異形の音楽がここに立ちあがったのだ。
 さて、彼らのアルバムを一枚ずつ紹介したいのはやまやまだが、そろそろ飽きてきたであろうと思われるので、オレがベストと選んだ「あぶらだこ(亀盤)」を紹介する。
 この盤は彼らにとって3枚目(自主制作を含むと5枚目)のアルバムである。前作「青盤」がある意味究極に難解性を増し一見さんおことわりの様相を見せている(もちろん大傑作だ)のに比べ、この盤はいくぶん敷居が低い。普通にロックっぽくかっこいいリフがあったりする曲もある。人に「あぶらだこ」を薦める時に最初に聞かせるのがこの盤だ。

 ここまで書いてきて変拍子を使用していること以外に「あぶらだこ」がどんな音であるのかを全く説明していない(やはり信仰告白文か?)ことに気付いたので説明。
 うーん、どんな音か?という質問に対しては似た感じのバンドをあげるのが一番簡単なのだが「あぶらだこ」に関してだけは本気で似たバンドをあげることができない。あえて言えば、一番近いのはザッパかなあ、あとキング・クリムゾンも少し、、とは言え全然違うけど。。音楽ジャンルでも説明できない。ロック、パンク、グランジ(笑)、プログレ、フリーミュージック、ジャズ、ファンク、ブルース、歌謡曲純邦楽、誇張ではなくそのすべての要素が含まれているのだから。
 とはいえ特徴として一番わかりやすいのは変拍子だ。とにかく普通の拍子の曲がない。スラッシュなどでよくあるテンポチェンジみたいな生易しいものではない。曲の中で何度も何度もテンポと拍子が変わるのである。ゆえに単純に体を揺らしたり跳ねたりすることはできない。聞いてて脱臼を起こしそうになる。そしてその異常なリズムにまったく乱れなく完璧に絡みつくベース。「21世紀の精神異常者」の間奏部分のような、と言えば想像しやすいかな。よって演奏はものすごい難易度である。かといってプログレのようなテクニック至上主義な難解なものではまったくない。難解な変拍子は単に彼らの表現の手段なのだ。
 ここで「あぶらだこ」のもう一つの大きな特徴に触れなければならない。そのボーカルである。ほとんどの作曲とすべての作詞を手がけるボーカリスト「長谷川裕倫」のボーカルスタイルは、なんというかものすごく変だ。唯一無二だ。たぶん「あぶらだこ」の音を聞かせた人の5人に4人はそのボーカルに抵抗を示し、「ボーカルさえなければかっこいいのに」という感想を抱くだろう。実際何度もそういう反応を耳にしてきた。しかし当然ながらその問いにはこう答える「このボーカルがあるからあぶらだこなんだ」。そりゃそうだよ。
 一部の曲をのぞけば基本的にメロディーはほとんどない。ヒキガエルを潰したような異様な声で漢文のような難解(というか意味不明)な歌詞を呪文のように吐くそのボーカルスタイルが変拍子以上に「あぶらだこサウンドのキーである。

 やはり文章で「あぶらだこ」の音を説明するのは徒労な気がしてきた。やはり買うでもライブ見るでも借りるでもなんでもいいので一度聞いてくれ、と言うしかないな。
 ということで「亀盤」の曲にコメントを付けていくことにする。

 解:しょっぱなのドライブしまくりのベースを聞いただけでアドレナリンが噴出するキラーチューン。これはかなりパンクっぽく一番人に聞かせやすい。
 陥没:美しいギターリフとスネア連打に引っ張られて続けてわかりやすいポップソング。とにかくこの曲はギターにしびれる。
渺茫の星園:打って変わって彼らにしては驚くほど普通の8ビートにのせたバラード、ともいえる曲。美しすぎる。
五百段階右折:さてここでアルバムのイメージがガラリと、どちらかというといつもの「あぶらだこ」色の濃い曲調が続く。とにかくこの曲は変拍子の嵐、なのに乗れる奇跡の曲。サビはあぶらだこ一キャッチーなのではないかと、
秘境にて:長めのイントロに緊張感が高まるが、曲がはじまると和む。「ソフィア・ローレン!虚実皮膜!」のシャウトがすごい。あと間奏もたまらない
ひかり号:「あぶらだこ」のアルバムには欠かせないインスト曲。通常は1曲目が多いが今回はこの位置。とてつもなくアクロバティックでロマンティックな曲。やや短い
徒歩記:これもキラーチューン。短いイントロのあとの「二足回転輪廻遁甲!」のシャウトでぶっ飛ばされる。かなりパンク色が強い曲
落札:カウベルを使ったのんきな8ビートから爆裂ギターが入り任侠ボーカルに突入する曲。うーん、なんと言ったらいいのかわからない。けどかなりユーモアある曲。
焦げた雲:12分弱の大曲。この曲は自分にとって別格。変拍子は抑え目にゆったりとしたリズムではじまり、ギターがゆっくりとゆっくりと盛り上げていく。3分を過ぎたころにボーカルが入ってくる。いつになくメロディアスで丁寧に歌い上げる。煌くギターに乗せてスケールの大きい情景が描かれてゆく。ここまででも十分に名曲なのだが、6分30秒あたりからベースのソロがはじまり、ギターが重なりスネア連打に続いて豪快なインストパートが最後までたっぷり5分半続けられる。もうこの部分が、この部分が、すべてのロック音楽の中で一番好き。とにかくダイナミックで美しくて、いつまでもいつまでも聞いていたくなる。言葉を尽くしてもなにも伝わらない。

 ということで3000字を超えてしまったのでそろそろ終わりにする。あとは少し基本情報を。
 メンバー全員本職を持っているためバンド活動自体は非常にマイペース。4,5年に一度アルバム、ライブもへたすりゃ4年に一度というかんじだったが、最近はものすごく活発に活動しており、年に5,6回ライブが見られる。
 ライブは独特。基本的にMCは全く無しでひたすら曲が演奏される。演奏時間はワンマンライブでも長くて30分。
 今年の6月4日に4年ぶりのアルバムが発売される。

すいません、やっぱり非常にダメな長文になってしまいました。
で、はてなダイアリーが選ぶ名盤百選もとうとう100人目
100人目を選ばせていただくのは光栄でありすごいプレッシャーなのですが、ぼくが個人的にファンであり、いつもレビューを参考にさせていただいている映画/音楽ライターの長谷川町蔵さん(id:machizo3000)にお願いしたいと思います!

*1:あぶらだこ」の作品タイトルはすべて「あぶらだこ」である。ファンはジャケ写から「木盤」「青盤」、「亀盤」、「釣盤」、「月盤」といいならわしている

*2:次のアルバムで吉田は脱退、伊藤健一となる